2011/09/04

映画感想)英国王のスピーチ

史実を基にした、リアルな感動モノ。といっても、感動「させる」ような演出は殆どなく、自然と感動「できる」ような、優しい物語だ。

 

 英国王子バーティは、吃音症(どもり)に悩まされており、様々な克服方法を試みてはいたものの、半ば以上諦めかけていた。「自分は話す事が最も苦手だ、国民もそれを知っていて馬鹿にしている」そんなコンプレックスを抱えたまま、彼は恐れていた王位継承の日を迎える。ヒトラーが台頭する時代は、国民を戦争に向けて鼓舞する必要を迫っていた。

彼の治療を担うセラピスト・ライオネルとの友情と、彼を支える王妃エリザベスとの愛情が見所となる。

以下、ネタバレあり。


史実を忠実になぞっているのだから当然といえば当然だが、バーティの吃音症は綺麗さっぱり治ったりはしない。これは僕がとても好きなポイントだ。

映画の世界では、困難な問題でも友情や勇気の力ですぱっと解決したりする(ハリウッドだけか?)。それはそれで、エンターテインメントとしては必要な要素だろう。
でも現実の人生で抱える問題の多くは、奇跡も魔法もあったものではない。困難は消えない。ただ僕達は、友達や恋人と一緒なら、その困難とも付き合っていけるという話。そしてこの映画はそんなお話なのだ。

ジェフリー・ラッシュ(パイレーツ・オブ・カリビアンのバルボッサ船長)が演じる言語聴覚士・ライオネルが、バーティと接する際の距離感はとても印象的だった。

そもそも平民と王子(途中からは国王)では、心理的距離感は隔絶していて当然である。言葉遣いなども然るべき作法がある。しかし、ライオネルは最初からかなり近しい関係にあるかのような言葉で王子と接する。言葉遣いだけ見れば、最初は親友、途中は喧嘩中の悪友、最後は国王と騎士爵、といったように寧ろ離れていくようにも見える位だ。
私見によれば、ライオネルは最初職業的な使命感でもって「患者の治療の為に」良い方法で王子に接していたのが、途中感情的な衝突を迎えて以降は、個人と個人の友誼に基づいて、「国王の為に」良い方法で接するようにシフトしたのだ。

コリン・ファース(僕にとってはマンマ・ミーアの「目覚めちゃった」パパ役)のジョージ6世も観ていてとても気持ちが良かった。

平民と接した経験がなく、癇癪持ちでもある彼は、ライオネルに対し当り散らすように接する。感情のコントロールができないかのような側面は、自覚もあるように彼の欠点ではある。
しかし、一度ぶつかりあい、時間をかけてライオネルを友人として受け入れて以降は、そうした態度はなくなりとても紳士的だ。このようなエピソードはジョージ6世の(史実では善良王と諡されたと云う)誠実さと善良さを物語っており、とても憎めない、キュートな人物に感じられる。

本編から離れるが、特典の中には実際のジョージ6世が行なった開戦時と終戦時のスピーチが収録されている。

開戦時のスピーチは、映画の中で行われたものより少しどもっているように聞こえた(それでも決して聞き苦しいようなものではない)。
それに比べて終戦時のスピーチは、この人が吃音症で困っていたのかと疑うほど流暢で驚いた。このスピーチにもライオネルが付き添ったのかはわからないが、ここまでになるには彼の力も大きかったのは間違いないだろう。

この映画を観ても、大笑いする事も大泣きする事も無いだろうと思う。そうではなく、すっきりと晴れやかな気持ちになれる、そんな映画だ。強くお勧めしたい。

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