2014/01/26

書籍感想)ビブリア古書堂の事件手帖(5)/三上延

大人気古書ミステリシリーズ最新刊、『栞子さんと繋がりの時』のご紹介。

このシリーズでは、1巻ごとに1つの話が進行しつつも、形式はオムニバスっぽくなっています。
つまり1作の中で幾つかの謎が起こり、それが手早く解決されつつも、それぞれ独立した事件の間に共通の軸のようなものがあるわけです。

1巻では、とある貴重な本を巡る陰謀めいた(本来なら警察沙汰の)事件を背景に、表面上は平和で日常的な事件が進行していました。
2巻では、それぞれの事件を通して栞子さんの過去と、蒸発した母親の怪しい素描がなされました。
 
↑第1巻↑ / ↑第2巻↑
そしてこの5巻の大テーマは、どうみても『結婚・家族』
主人公・五浦大輔くん、ヒロイン・篠川栞子さん。末永く爆発してください(ネタバレ?いや、この二人が結婚するという話ではないんですよ、今のところ)。


消えた旦那を、古本を通じて探す奥さんの話。妻の死の間際に古本を買った男と、父親のそんな行動に強く反発する息子の話。男の集める本に嫉妬してしまった女の話。

いずれも本が結び付けた男女。奇しくもそのどれもが、現在は幸せを共にしていません。そんな人達を見ながら、『男女交際するとしたら、結婚を意識せずにはいられない』ほどの自称重い女・栞子さんは大輔から申し込まれた交際にどう答えるのでしょうか。

…って、そりゃあもう読者的には分かりきっていたのですが。
ただ今回、少なくとも僕にとっては、大輔くんが好感度急上昇の発言をしてくれました。

栞子さんの母・智恵子は、本に対する貪欲な知識欲を満たす為、家庭を捨てて出奔(?)した過去があります。捨てられた側の栞子さんは当然それを恨み、母親を嫌いつつも、自身の中にも負けず劣らずの知識欲があること、他にも母親似の面が多数あることは認めざるを得ず、そこを疎み、恐れを抱きます。
いつか自分も、この男を捨てて自由を求めるのではないか。

「わたし、ずっと怖かったんです……自分もいつか母みたいにどこかへ行ってしまう……あなたを置いていってしまうんじゃないかって

5巻エピローグより

約30年前に母・智恵子が父・登から求婚された際にも、同じような葛藤を感じたそうです。栞子さんの父親は、
『いつ貴女が旅立っても構わない、僕はずっと待っている』
そんな文句で口説き落とし、結婚にこぎつけたとのこと。

一方現在、栞子さんを口説き落とした大輔くんの言葉はまるで違ったものでした。僕はこっちの方が断然好きだなぁ。

そんなことをずっと考えているうちに、返事をするのに時間がかかってしまって……」
「*? ****を******に*****か?」

先の引用部分の続き

どんな言葉かって、そりゃあご自分で読んでください、としか。


↑最新刊↑

偶然にも、知人の結婚式の帰りにこの本を購入したので、色々ぴたっとくるものがありました。

わざわざ上で伏せた大輔くんの言葉を殆どネタバラシするような感想ので、肝心な部分だけは伏せますが、
篠川夫妻や娘の栞子さんの考え方は(A)二者択一だったのに対して、僕が気に入った大輔くんの返事は(B)総取りなんです。『どっちが欲しい?』という問いに対して臆面もなく、『全部よこせ』と答えたんです、この男は。

そして結婚という文化習俗、夫婦という生き方は、明らかに(B)的です。誰もが知る定型句でも
、「健やかなる時も病める時も」と誓いますよね。クリスチャンでなくても、健康な時だけ夫婦でいて病気をしたら知らんぷり、なんて態度は許されないでしょ?
(A)的な考え方が悪いとは言いませんが、それを信条に生きるなら、そりゃ結婚生活は馴染まないだろうと思います。合理性とか生産性とか、そういう目標とはそぐわないですよ、結婚って。

だから、(A)な考え方で結婚に二の足を踏んでいた栞子さんは間違っちゃいません。ただ(B)的な発想がなかっただけで。(彼女にとっては)新しい観念を注ぎ込んだ大輔くんは、ますます彼女の特別な存在になったでしょう。ぺっ。

ところで、(A)な考え方に固執して(B)なんて考えもしない的な人、現実にも結構いらっしゃいますよね。むしろ(B)を我儘とか悪と評して、自分で勝手にブレーキをかけちゃう。
だけど別に(B)は強欲ってことじゃないですから。

大輔くんはただ、好きなものに素直なだけなのです。論理的だったり頭脳明晰ではないかも知れないけれど、そういう個性、僕は好きです。

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