2011/06/26

漫画感想)岸辺露伴 ルーヴルへ行く/荒木飛呂彦

お値段的に購入を躊躇っていた(¥2,800)けれど、かっとして買ってきた。ジョジョラーとして抑えない手はないだろうという強迫観念がなかったとはいえない。

だが、後悔はない。そしてジョジョラーでなくても問題なくオススメできる作品だった。
じっくり3回読み返して、それが感想だ。

そもそもはルーヴル美術館の側が主導する、ルーヴルBD(バンド・デシネ)プロジェクトに、日本の漫画家として荒木先生が参加した形。

おおまかな話の筋は、ルーヴル美術館のどこかに在るという「この世で最も黒い、最も邪悪な絵」を、露伴が探しに行くというもの。

「ジョジョ」のキャラクターは岸辺露伴以外にも数人登場するが、知らなくても別に問題はない(仗助は、居るのに顔が出てこない…!)。

ただ、「漫画」として読むと、ちょっと違うな、という印象はある。
以下、ネタバレ有り。そしてとても長い。ご注意を。


初めに断っておくが、僕はそれなりに日本の漫画を読んでいるつもりだけれど、バンド・デシネなんて聞いた事もなかったし芸術に造詣が深いわけでもない。
本作は、ルーヴルに所蔵されている彫刻や絵画を知っている人が見れば「あ、このポーズ(or構図)はあの作品のオマージュだな」と気付くような仕掛けが随所に施されているが、残念ながらそういう楽しみ方は僕には紹介できないという事だ(巻末の作品解説で、一部は紹介されている)。

いいじゃん、ジョジョ立ちって事で。
前置き終わり。

漫画として読むと?

(分かりやすい)オチがない。笑い的な意味ではなく、事件の解決という意味で。
露伴は問題の絵が安置されている部屋から逃れ出た。絵を確かに見て、その正体を知ったけれども、その絵を自身の手で処分したり持ち出したりしたわけではない。

敵と出会ったけれども、逃げて、それだけ。
だのに、「やっと今解放されたのだ」と露伴は事件の解決を告げる。
おいおい、ちょっと待てよ、というわけだ。

解決は分かりやすい形で示されていない。露伴の心の中に、そして読者の解釈の中に、解決はひっそりと隠されている。
そういうやり口は日本でも決して珍しくはない(個人的にはエヴァンゲリオンがこれを「アリ」にした感がある)けれど、少なくともこれまでのジョジョでそういう幕引きはなかったし、他の多くのケースでもスタンダードではない筈だ。

という訳で、普通に漫画として読むと、腑に落ちない感が残ってしまう。

奈々瀬が陥った闇

難解さが芸術性を高めるかのような誤解は唾棄すべきと思うけれども、難解なパズルを解きにかかるのは楽しい。
以下、僕の解釈によるこの事件の解決編である。

読み解く為のキーワード。
  • ルーヴルの闇(何が潜んでいるのか分からない)
  • 闇に封じられた芸術と作者の怨念
  • 家系に受け継がれる後悔と死の記憶
巻末の解説から見ても、作者は明らかにルーヴルの暗部に注目している。別に悪い意味ではなく、単に人の目に触れない部分という意味で。
そこにも作品はある。どこかの誰かが全霊を込めた作品が、ひっそりと眠っている。その作者は恨まずにいられるだろうか?

しかし仁左右衛門の場合は、たまたま木の中に棲んでいた人の過去の後悔を暴くような能力を持った蟲によって、不幸な作品に終着してしまう。
人に見てもらいたいという妄執を抱えながら、見る者を全て殺すという、矛盾に満ちた絵だ。露伴は能力を駆使して命からがら逃れ得たが、基本的にこの絵を見て生き残る方法はない。先祖が居ない人間などいないし、先祖が死んでない人間もいないのだから。

この不幸な邂逅によって、仁左右衛門と奈々瀬は出口のない無限ループに陥ってしまったのだ。
但しループを抜け出る方法は簡単だ。そもそも「自分が全力で描いた絵が誰にも見てもらえない事が恨めしい」が出発点なのだから、誰かが絵を見ればいい。生きたままで。そこが難しいのだが。

変心

奈々瀬は、無限ループを抜け出す為に助けを呼ぶことにした。とはいえ奈々瀬は既に死んでいる。できる事と言えば、絵が(顔料が)持っている家系の記憶を辿る力を使って、現在生きている子孫に呼びかける事くらいだったのだろう。

――「スタンド使いは引かれあう」。ジョジョ読者にはお馴染みの法則だ。そして彼女は露伴と出会った。

元より、露伴が絵を見て生き残れる保証はどこにもない。もし失敗すれば、奈々瀬はただ自身の遠い血縁を呼び出して殺した事になってしまう。
それでも、自身の目的の為、奈々瀬は露伴に「邪悪な絵」の話を伝え、ルーヴルへ誘う。

ところが、露伴もまた絵の世界で生きる人間だった。しかも未だ芽の出ていない、これから世界に羽ばたこうとしている人間だった。
奈々瀬は決断する。露伴がはっきりと失恋し、自分を忘れるように。彼が彼自身の人生を歩めるようにと(その目論見は失敗し、違う形で露伴を助けるけれども)。

謎めいた、涙を流しながらも力強い奈々瀬の肖像。それは、薄暗い穴蔵の底で夫を慰めながら永劫を過ごす事を覚悟した貌ではないか。
ルーヴルでも絵の存在は忘れ果てられ、最近は人を殺してしまう事も減っていたのだろうし。

そして露伴は絵を見て生還し、奈々瀬の意図を理解した。これにより仁左右衛門の妄執は解かれたのだ。

ジョジョとして読むと(濃厚注意)

岸辺露伴=ヘブンズ・ドアーは、自身の記憶を一時的に消すことで、過去からの攻撃を無力化した。しかしそれでは絵に対して攻撃できなくなってしまい、逃げるしかなかった。
他のスタンド使い達がこの絵に遭遇したらどうなるだろう?

ディオ=ザ・ワールドですら、過去から逃れる術は持たない。近接パワー型には厳しい相手だろう。

空条仗助=クレイジー・Dは、小説版(The Book)で似たような戦いを強いられ勝利しているが、その時の対処法は「目を瞑る」だった。本作の絵は一度見てしまったらその後で目を瞑っても恐らく意味はない。やはり厳しいか。

吉良吉影=キラークイーンは猫草=ストレイ・キャットの力を借りれば有望株だ。絵を見る事なく爆破できる。部屋の外から絵の位置を知る方法があれば、という前提がつくが。

吉影といえば、父親の吉廣=アトム・ハート・ファーザーがこの絵を見るとどうなるのだろう?幽霊への効果の程は謎である。もし幽霊に効果がないなら、このトリオで確実に爆破できよう。記憶と精神がある以上、無理っぽいが。

ディアボロ=キング・クリムゾンもプッチ神父=メイド・イン・ヘブン(含ホワイトスネイク)も、ディオと同様の理由で望み薄だ。時間操作系は、結局相手を直接打撃しなければならない点が厳しい。

逆に遠距離系と自動操作系は有望株が多そうだ。絵の位置を特定する方法だけが問題だが。メローネ=ベイビィ・フェイスあたりは負ける気がしない。

チート性能のジョルノ=GE・Rはどうなるのか想像がつかないので放棄する。

なんとか近づいて殴る方法はないか?

ノトーリアス・B・I・Gは精神がないという点でいけそうだが、絵は動かないので攻撃できまい(シュールな絵面だ)。
ジェイル・ハウス・ロックをかけて貰った状態で絵を見れば、色々な後悔の像が浮かんでは消えていくという変則技も考えたが、やはり攻撃できない。

話が大分戻るが、最強生物カーズ様はどうなるだろう?肉体的な意味ではなく精神的な意味で、彼は過去に殺した人に対する後悔なんぞ持っていないように見える。こういう精神のありよう(俺様が食物連鎖の頂点!)なら、案外誰でも大丈夫なのかも知れない。
ただ、そこまでぶっとんだ精神に達しているのはカーズ様くらいだろうと思う。比較的いけそうなのはチョコラータか。

まとめ

前項ではしゃぎ過ぎた感はあるが、まとめると、
  • 普通の漫画とはちょっと違う方法論で描かれている事は意識すべき
  • 具体的には、コマが大きめで台詞が限定的な傾向がある
  • 読んで理解するというより、観て想像し、共感していく仕掛け
  • ストーリーつきのイラスト集、とまで言うと言い過ぎだが、そういう方向性
  • 漫画を小説と喩えるなら、本作は映画に喩えられる感じ
といった所。面白い読書体験だった。

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