物語としては馬上槍試合の本戦〜決勝戦直前までの出来事で、時間はそんなに経たない19巻だけれど、少し前からDXが抱えている「王って何?」テーマはかなり前進したように思う。
そしてDXの恋愛再燃。ぎゃー。
以下、ネタバレありあり。
以前18巻の感想の中で、「色んなエピソードが並行して走った後、それらが意外な形で収束していって面白い漫画だ」というような紹介の仕方をした。そしてこの巻は、そういう目で読むと、幾つものエピソードが1つのテーマへ収束していく。テーマは、「DXにとっての王」。
オズモおじさんが教えてくれたように、或いは父リゲインが語ったように、騎士なくして王はありえない。
逆に王なくして騎士がありえるか、というと…前王が正常な頃の騎士達ならありえないと答えただろう。最後の瞬間まで王を信じていたリゲインにとってもそうだったかも知れない。
しかし「剣が折れ」て議会が実権を握ってみれば、王なくしても騎士は現に在り、民からの信頼も集めている。体制や法ではなく騎士達の精神性においても、大きなパラダイムシフトがあったわけだ。
ましてアカデミー生達の世代では、DXがクエンティンに口説かれた時に「俺は王のいる国を知らないから」と言ったように、そもそも王のいる国を知らない。実感できていない。
だから、今回の回答役だったスレイファン卿を含めて、(DX世代にとっての)「王って何?」に適切な答えを持っている大人は存在しない。返ってくるのは(我々世代にとっての)王とはこういう存在だったという古い答えだけだ。DXが本気で王を目指すなら、新しい王の姿が必要だ(それはきっとアンちゃんの思惑にも近い)。
そして新しい王の姿のヒントになるのは、新しい騎士の姿なんじゃないか。
この巻が始まった時点でのDXの立ち位置は、これまで通り傭兵的な、自分の目的の為なら手段を選ばないようなスタンスだった。レヴィとチルダの為にわざと負ける事をなんとも思っていなかった。
それが、レヴィとの試合を契機に変化する。レヴィは自分の勝利(=欲求、目的)を自身の騎士道の為に捨ててみせた。もちろん彼はチルダの為にそうした訳だけど、DXからすれば騎士のなんたるかを見せつけられたようなものかも知れない。
仮にDXとアプリの思惑通りにレヴィが勝っていたとしたら、それで2人は表面的には上手くいったかも知れない。けれどレヴィがチルダの夢を否定した事実はしこりとして残ってしまう。
それを相殺し、チルダの傷を癒し、2人の誇りを守る為には騎士道が必要だった。それは強がりという奴だったりもするけれど。虚勢を張って、貸し借りを精算する。必要なのは勝利による優位より寧ろプラマイゼロの関係性。レヴィがDXに見せたのはそんな騎士道だったように思う。
そしてそれは多分、リゲインやゼクセレンがDXに教えた騎士道精神とは違うものだ。大人世代にとっての騎士道はあくまで王なりレディなりに何かを「捧げる」関係性で、レヴィみたいに敗北を捧げるなんてのはちょっと。
例え前王に誰もが失望して、その人格だけでなく王位そのものに信が置けなくなったとしても、だからといって既に染み付いた(患った)価値観が簡単にひっくり返ったりはしない。
次巻、DXはディアを乙女に選ぶだろう。それは予想がつくけど、レヴィの騎士道を見た彼が、ディアが高位貴族で婚約者もいる事を知っている彼が、竜葵に焚きつけられた彼が、ディアとの関係性をどう相殺するつもりなのか、全く想像がつかなくて、うわー楽しみでもうじたばたします。ゼロサム購読しかねない勢い。
まさか略奪に走らないですよね。まさかのアカデミー編終了からの逃亡生活編。ないわー。
ないわーと言えば、竜葵からよりによって恋話が飛び出すとかもうね!目を剥いた!あんた未婚の領主なんだから発言には気をつけろよ!
最後に。限定版についてきた小冊子に載っていたQ&Aに、なるほどと手を打ったものがあった。
Q:物語を作る上で大切にしているのは?
A:辻褄。
簡潔にして意を得たり。確かに僕は辻褄のあってない話が苦手だし、これまでの所ランドリを読んでいて辻褄が合わないと感じた事はない。この点が読んでいて快適な理由なのかも。
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