2011/12/02

書籍感想)テイルズオブヴェスペリア 竜使いの沈黙(上)(下)/奥田孝明

最初はXbox360で、後にPS3版も発売されたテイルズオブヴェスペリア(ToV)のスピンオフノベル、竜使いジュディス編。下巻が先日発売されたので、早速感想を。

  

以下は、この小説のネタバレに加え、ゲームToVのネタバレも含むのでご注意あれ。


最初にToVに対する思いを簡単に語っておくと、(長すぎるので中略)といった感じだけれど、Xbox版とPS3版の両方を持ってるぜ!といえば少しは伝わるだろうか。

スピンオフ小説とはいっても、上巻の間は他のキャラクター達との絡みが殆ど無いから、独立した小説として楽しめるだろう。下巻に入ってゲーム本編のシナリオに巻き込まれ始めると、本編の描写はこの小説では最小限だから、本編をやって居ない人には何が起こっているのか分からないかも知れない。
でも、それはそれでアリなんじゃないかと。本編をやってない人が(表紙のロリっ娘が可愛い等の理由で)この小説を読んで、話が気になる!といって本編に手を出すって順序でも楽しいんじゃないかなあ。

先に本編をじっくりやった人間からすると、ううむ、と唸る作品。良い意味で。

書いてみてつくづく実感したのは、ジュディスのような多くを語らないことで成立しているキャラの内面を描くというのは、本当に両刃の剣だということです。

ー「竜使いの沈黙(下)あとがき」349pより

後書きにもある通り、ジュディスというキャラクターは秘密多き女性という属性で成り立っている部分があって、虚実ごった煮の魅力という一面を持っていた。でもそれが、一人称小説に描かれる事である意味裸にしてしまうわけだから、ファンは満足するか落胆するか、その落差は激しい事と思う。僕は大満足の側だった。

一番コアなポイントは敢えて最後に触れる事にして、それ以外のポイント。
まずは、ベリウスを殺してノードポリカから脱出した後、フィエルティア号の駆動魔導器を破壊するくだり。

陶然の時は速やかに過ぎ去り、ジュディスの自我はフィエルティア号の甲板に戻ってきた。ここがどこなのかを思い出し、何をしたのか即座に理解した。
目の前で駆動魔導器が煙と火花を上げている。だがその光は消えていた。完全に死んでいた。

ー「竜使いの沈黙(下)」224pより

ここいらは、プレイヤーとしては「色んな事がいっぺんに起こって、もういっぱいいっぱい」な心理状態になってしまっていて、正直ジュディの心情を慮る余裕はなかったのだ。
それが小説版を読むと、そこに至るまでの彼女の方がどれほどいっぱいいっぱいだったか、外面に反して全然余裕がなかったかを思い知らされる。
殆ど心神喪失じゃないですか。ごめん、気づけてやれていなかったよ、分かりづれえよジュディス。テムザで合流する時はそれなりに立ち直ってるしさ。
仲間を裏切ることに苦渋を感じながら、それでも使命の為にと破壊を選んだんだと思っていた。でも本当はそんな積極的な決断ではなかった。勝手に強い人だと思い込んでいたのだなあ。

何気に、本編の中ではナム孤島(おまけ的な部分)でしか出てこない「ジュディスはギャンブルが滅茶苦茶強い、その筋では伝説化してる」という設定をきちんと無理なく回収している点も心憎い。回収というより、この経験がなければジュディスはこれ程ポーカーフェイスで居られなかっただろうっていう、屋台骨を支えるような設定だ。それを本編のおまけ部分から拾うっていうのが、イカすなと。

それから、ナギーグについても絶妙の扱い方だと思った。ナギーグというのは端的にいえばテレパシーのような能力(本当はちょっと違う)の事で、本編ではさらっと触れられる程度なんだけれど、小説ではジュディスのトラウマと葛藤、それに観察力を見事に演出している。

彼女はナギーグの力が強く、その気になれば他人の考えている事を読めてしまう。けれど、一度だけそれを試みて悲劇を招いた経験から自分にそれを禁じている。読めるけど読まない。そう誓った。
物語の中盤、彼女が魔導器の破壊という使命に没入し、何も感じていない間は何の問題もなかった。他人に興味なんてなかったからだ。読めるけど別に読みたくないから読まない。全く難しい事ではなかった。
が、後半になって仲間を得て、信頼し信頼される関係になってしまうと、俄然バランスが変わってくる。仲間が何を思っているのか知りたい誘惑が生じる。(普通の人間にとっては当たり前に)ナギーグなしで繋がりあえる仲間達に、ナギーグに長けた彼女だったから余計に惹かれたのかも知れない。

また、一人称視点ではしばしば主人公以外の感情表現がおざなりになったりするけれども、ジュディによる他のキャラクターの描写には、彼女の観察力に裏打ちされた説得力がある。

己の信念にかけて誰かを切り伏せてきたユーリだ。(中略)マンタイクで見た彼の姿は、決して望んで罪を犯す者のそれではなかった。痛みというものを彼は知っている。そして彼は忘れない。
彼自身は認めずとも、彼はそれを己と誇りとしてきたに違いない。

ー「竜使いの沈黙(下)」273pより

こんな描写は、ユーリの一人称では絶対に出てこないし、またカロルあたりの視点でもやっぱり出てこない。ジュディス視点ならではの表現と言えるだろう。(おっさんだって観察力はあるんだけど、青年にそこまで熱視線を送るかというと)


で、公式の小説で触れられて本当に明らかになった、ジュディスとリタっちが異母姉妹であるという事実。
本編中にもヒントは散りばめられていたとはいえ、僕はゲームをやっていただけでは気付かなかった。攻略Wikiの小ネタとかいうページを眺めていたらそこに書いてあって、最初は驚いたものだ。言われてみればイフムンフトなんて凄く変な名前なんだけど。魔導器命名イベントって時限イベントで普通にやってると見逃しやすかった気もするし。

イフムンフト・ネプメジャプ(アルファベット表記して↓)
ifmunft npmejp (アルファベットを一つ前にズラす↓)
helmes moldio (ヘルメス・モルディオ)

上記の暗号に僕は全然気付かなかったけど、小説にも本編にも出てきたリタっちの台詞は確かにこの暗号を匂わせていた。

「ページによって少しづつ変わってるけど、法則性を持たせて文字をずらしてるだけみたい。法則性探るのがめんどくさいってだけ…」

ー「竜使いの沈黙(下)」 301pより

僕が気付かなかったからというわけではないが、ゲームはクリアしたけどそんなの全然気付かなかったよ?という人もそれなりに居る事と思う。そうした人達は、大いに驚いて、またヴェスペリアをプレイしたくなれば良い。

  

ジュディスは極めてしまえば一対一の状況では無類の強さを誇るらしい。空中コンボ難しいよう。

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