2011/08/15

書籍感想)ザッポス伝説/トニー・シェイ

自発的にはこういう本に手を伸ばさないけれど、人から借りて読む事に。読書体験は冒険であり出会いなので。
アメリカの靴通販の雄、ザッポス・ドット・コム(日本での知名度は高くないかも知れない。amazonが約800億円かけて買収した企業だと言えば凄さが伝わるだろうか)のCEOが、自身の半生(といってもまだ30代)とザッポスの経営を通じて学んだ知見をシェアしてくれる。

表紙はトニー・シェイ本人。若い!

著者の主張はシンプルで分かりやすい。またここに書かれているアイデアの価値は、起業家や経営者にしか通用しないものではなく、現場の従業員やリーダークラスにとっても参考になる部分が多くある。
だが、日本で生き日本で働く身としては、そう簡単に自分の生き方/働き方に取り込めるようなものではない。文化が違うから。しかしそう思うと、日本の労働文化(価値観)って変わっていけるんだろうかと暗い気持ちになったりもする。



最初に、ザッポスの理念を簡単にまとめておこう。

勝手にまとめたもの。こんな図は本書内には一度として登場しない。

多くの営利企業では、一番上の「目的」には金銭的な利益がくる。ザッポスだって利益はあげるけれど、それは時として幸福の為に犠牲になっても構わない、第一優先ではないものとして位置づけられている。象徴的な事実は、電話オペレータが顧客と話す時間を計っていないという事だ。普通、それはコストと見なされ常に削減のインセンティブを与えられるが、ザッポスではそうではないのだ。

二段目に「方針」と表現したが、日本的にいえば社風とか企業文化といったものを明文化したもので、社是社訓が近いだろうか。ザッポスの10のコア・バリューはぐぐればでてきそうなのでここでは割愛するが、要するにどんな事に気をつけなさいというガイドラインだ。

コアバリューの内容それ自体は重要ではない、という。そんなものを決めて、社員に通達して外部に発表しても、それだけでは何の意味もない事は当然の事だ。
それが本当に価値を持つように、ザッポスではコア・バリューを日常生活全般に亘って意識づけるよう求めている。それができない社員は採用しないというほど徹底している。

何故そんな事をするかといえば、それが幸福の実現に必要だと考えたからだ。説明が前後したが、「幸福」とは顧客満足度を言い換えたものではない。そこに従業員満足度と取引先満足度(そんな言葉があるかは知らない)を足しあわせた、「関わる人全員がハッピーに」という思想だ。
宗教じみている? そうかも知れない。彼らはそれを自覚している。

以上が僕なりの本書内容サマリーだ。具体的に、より細かく知りたければ一読をお勧めする。

さて、ザッポスの事から離れて、日本での働き方についての感想ないし愚痴などを。

ザッポスでのような働き方を、ザッポスほど有名でなく実績もない日本のベンチャーが社員に求め、そのような条件で公開求人を出したらどうなるだろう。それはつまり、社員同士は多くがプライベートでも友人であり、勤務終了後は頻繁に飲みにいってインフォーマルの会話を楽しむような、そういうワーキングスタイルだ。
日本では余り歓迎されないんじゃないかと想像する。ミスマッチが生じるのではないかと。典型的の反応は、こうだ。「自分の時間が持てなくなりそうで嫌だ。勤務時間外に仕事の話なんてしたくないから、飲みにも行きたくない。友人は趣味などを通じて自分で選び、そこではビジネスの話はしない」

公私の別は大切だ。寛ぐべき時間・空間で仕事をするのは辛くて悲しい。それは事実だ。
ただ、ザッポスの理念はそこを侵害するものではない。彼らのやり方が、労働者を搾取するようなものだと思うならそれは誤解も甚だしい。

ミスマッチを生む要因は大きく2つあると思う。

1つは、従業員の人生というものを一顧だにする事なく、可能な限り安い賃金で可能な限り長い時間働かせてやろうというマネージャが無視できない数いること。もう1つは、「リラックスしたまま働く」事を是としないような空気が強くあること。

こういう環境で働いていると、公私の間に強固な柵を築いたり、自発性を失って仕事を流れ作業でこなそうとしたり、困難に対処せずやり過ごそうとしたりする。結局は使う側も得をしないように、思うのだが。
ウィン・ウィンどころかルーズ・ルーズな労働文化に、僕らは浸っているんじゃないのか?

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