2012/11/21

書籍感想)新世界より/貴志祐介

アニメが始まった辺りから気にはなっていた作品。上中下巻と結構分厚いので尻込みしていましたが、機会があって読み始めてみました。
が、分量の心配なんて全く杞憂でしたね。一気読みですよ。長いなんて全く思わせない内容でした。ひゅう。

    

以下、世界観など軽く紹介しますがネタバレはありません。


世界観について

「新世界より」の世界では、子供を除き全ての人間が呪力という超能力を持っています。
殺人なんてチョロいくらい強い能力ですが、この世界の人間は他人を殺すと自分も死んでしまう為、殺人などは皆無です。

この設定だけ聞いた時は、他にもありそうな世界設定だと思いました。
しかしその広げ方が独特で、結果他に類を見ない世界になっています。

この世界がどんな歴史を辿って成立したのか。
何が良いこととされ、何が禁忌とされているのか。
自然界はどんな様子なのか。

とりわけ最後の要素は特異で、生態系(とりわけ動物相)をこんなに緻密に描写する超能力モノはちょっと他で見た覚えがありません。想像上の「ヘンな生き物」達がこの世界では実際に息づいていて、それぞれの生存戦略に基づいて食ったり食われたりしています。ちょっと不気味な世界なのです。

ジャンル?

古来からエンタテインメントにはバイオレンスとエロチシズムが必要とされてきました。この2点に限らず、ホラー要素・冒険要素・戦争モノ要素、その他「盛り上がるもの」はなんでも入っているような気がします。最後の方のノリはハリウッド映画のそれでした。
盛り上がりといえば、この小説には山場みたいなものがなくて、ずっと山場みたいな感じ(説明とか経過みたいなものが本当にちょっとしかない)で非常にスピーディです。
そんなごった煮で・味はくど目にも関わらず破綻せず読みやすいのは凄い筆力と思います。読んでて疲れるという欠点はあるかも知れませんけど。

しかし心に残るのは

文句なく面白い作品なんですが、読後に残ったのは疲労感と悲しい気持ちでした。それで二週目にまだ手が伸びていません。

同じく貴志さんの作品で、例えば「十三番目の人格 ISOLA」なんかも悲しい物語ではありましたが、読み終わった直後に再読を始めたのを覚えています。それは、悲しさとは別の、悲しさを吹き飛ばすような鳥肌がラストで立ったからだと思います。


一方「新世界より」は悲しい気持ちのまま終わってしまったような。決して悲しい出来事ばかりの物語ではないんですが、いわゆる新近効果みたいなものによって、そういう印象になってしまうんでしょうか。

この長い物語には、むしろ更に続きがあっても良いんじゃないかと、ふと思いました。こんなに重苦しい「俺達の戦いはまだこれからだ」は、つらい。
娯楽作品のフィクション世界における問題と、現実社会の問題を重ねるような読み方は余り得意ではありません。しかしあえてそういう風に読むならば、本作終了後の未来に待ち受ける問題はもろに教育と家庭の問題です。
そこに答えを出すのは、娯楽作品の役割ではありませんでしたね。そうでした。

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