といっても、たった今読み終えたばかりの現状、どんな想いを抱いているかと問われれば、
「……なにがなんだか分からない」
と、どこかの名探偵ならぬ僕でも答えたくなってしまいます。 良く分からない。特に結末が。
それでも、明確なテーマ(問い)と、それに対する各キャラクターのエピソード(答え)が12個も並んでいますから、自分ならそれらにどう答えるかな、と考えることは出来ますけれど……。
以下、「暦物語」のネタバレはありません。それ以外の既刊については相当ネタバレな箇所もあります。そこは背景色に同化させて隠してますが、一応ご注意下さい。
12個。
そう、「暦物語」は全12篇からなる短編集です。4月から3月まで、阿良々木くんの12ヶ月それぞれに起こった12の出来事を束ねたものです。
※いきなり横道ですが、物凄く久しぶりにメメのおっさんや毒々しい頃のガハラさんの姿が!なんだかとっても懐かし嬉しい!
※いきなり横道ですが、物凄く久しぶりにメメのおっさんや毒々しい頃のガハラさんの姿が!なんだかとっても懐かし嬉しい!
1つの出来事について深く長く掘り下げる構成ではないので、ぼんやり読んでるとあっという間に終わってしまいます。すると冒頭の僕のように「なにがなんだか分からない」となってしまいます。
そこで本作を読む時は、是非出題に対して本気で考えてみて欲しいですね。その方がより楽しめると思います。
Q.1 道とは何か
この問いは作中で阿良々木くんが12回ほど発するもので、あからさまに分かり易い本作のメイン・テーマと言えましょう。
単なる通路でありながら、人はしばしば道を人生のあり方に
阿良々木ハーレムの答えは実に個性的で、彼女達の価値観をよく表しています。
例えば蝸牛の迷子、八九寺真宵はシンプルに、『歩く場所、それだけ』と答えます。道路という意味だけでなく概念的な道についても同様に。だから決して立ち止まってはいけないのだ、と――。
ここだけ切り抜くとまるで自殺予防の啓発コピーみたいですが、よりにもよって既に死んでいる真宵がそれを言うのはまぁ、どうなんですかね…。ツッコミ待ち?ツッコミ待ちなの?
(古い漫画で、ある幽霊が『僕らはみんな生きている~♪』と楽しげに歌うギャグがあったんですが、それに通じる理不尽さを感じてしまいます)
Jコミ 「優&魅衣」/あろひろし |
死んでいる彼女だからこそ言える言葉でもあるんでしょうけれど。
もう1つ、僕がぐさりと来た回答を紹介します。今の僕の価値観に近い――いいえ、『こういう価値観でありたい』という目標と言った方が良いですね。
質問者は阿良々木暦。回答者は、阿良々木火燐。
もしも空手をやめなくてはならないという状況になった時、お前はどうするんだ? (中略) 「あたしの歩む道のゴールは、あたしが倒れた場所なんだ。歩みを止めなくちゃいけない状況っていうのは、それはゴールってことなんだ」 立ち往生はせず、倒れるまで進む。 裏を返せば、それは倒れるまでは歩みを止めないという、壮烈な決意の表れでもあった。
――『暦物語』P208~209(こよみツリー)
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一生ずっと、一念を貫き通せたら格好良いかも知れません。でも、大抵そんなことは無理ですよね。どうにもならない外的な要因(病気とか)に振り回されて、毎日のあり方も変わり(仕事辞めなきゃとか)、これまでと違うラベルを貼られ(障害者とか)、それらを受け入れるのが嫌で愚痴々々言いながら歩く道だってあります。
だけど、そこまで頑張って進んで来たなら、そこがゴールで良いんです。それまでの人生を誇ってピリオドを打ち、新しい道へスタートを切れたら、それだって凄く格好良いと思います。
だからそうある為に、いつでも未練なくゴールできるように、悔いなき毎日を楽しく歩むのです。
――などと書いている内はまだまだ未練たらたらっぽいですが。
貴方にとって、道とは何ですか。
Q.2 因は何か
最初のテーマほどあからさまではありませんが、やはり12話全体に共通するものがもう1つあります。
いわゆる日常ミステリもののように、『不思議なことが起こって→謎を解決する』という構成で出来ていることです。
- なんてことなさそうな石が、祠に祀られお供え物をされている。何故だろう?(第一話こよみストーン)
- 高校の屋上に花が献げられている。誰か死んだのだろうか?(第二話こよみフラワー)
- 公園の砂場に浮かびあがる鬼の顔。これは一体?(第三話こよみサンド)
冒頭の3話は特に、古典部シリーズやビブリア古書堂を彷彿とさせる日常ミステリっぽさが強く感じられました。
不可思議な現象に対して、調査や会話を通じてその原因を突き止めるというのが各話の枠組みです。最終節は、お馴染みの『後日談というか、今回のオチ。』から始まってネタバラシをしてくれます。
その先を読み進める前に、ほんの少しだけ立ち止まって、「どういうことなんだろう?」と考えてみて下さい。さながら、ミステリの最終章を読む前に犯人を探すように。
但し本作は、ミステリ風ではあってもミステリではありません。ミステリのお約束みたいなものは割とフリーダムですし、「こんなの分かるわけねェ!」と思う話もあるかも知れません。
(ミステリ畑にいた作者ですから、ちゃんと手がかりは示してくれています)
僕達の日常を省みると、因果関係の果――起こった出来事や誰かの行為――は目に見えても、因はなかなか見えませんね。はっきり分かることの方が少ない位?
あなたが実際に直面している不幸・あるいは幸運について、その理由を問うてみれば、その見え辛さがお分かり頂けるでしょう。
なぜ新商品が売れないのだろう―こんな良い製品なのに。
なぜ何度もデマが広まるのだろう―疑ってかかれといつも訴えてるのに。
なぜテストの成績が上がらないのだろう――Twitter止めれば?
仮説を立てたり検証したりで、かなりの確度で原因が判明することもあるでしょう。でもやっぱり殆どのケースでは分からない、はっきりしない、怪しい…真相は闇の中、です。
貴方にこの謎が解けますか。
Q.3 果は何か
因は見え辛いけど果は見える、みたいなことを書きましたけれど、さてどうでしょう。「果は何か」なんて問うまでもなく明々白々でしょうか?
そうでもないですよね。
シリーズの中で大きなターニング・ポイントかつデッド・ラインでもある「囮物語 なでこメデューサ」(→拙レビュー)を例にとってみます。
どうして千石撫子が蛇神になってしまったか原因を推理する上で、結果から動機を逆算(被害者が死んで得をする人が殺人事件の容疑者、みたいな)しようにも、この場合どの部分を結果とすれば良いんでしょうね?
撫子が神になったこと?神社が再建されたこと?貝木泥舟が死んだ(??)こと?阿良々木暦の吸血鬼化が進んだこと?それとも彼が無力化したこと?それとも…
って、書き出してみて(↑ネタバレにつき隠してあります↑)ビックリする位、「囮物語」が引き起こした結果は多いんですよねぇ。色々起こり過ぎ。
こんな具合に、実際に起こった1つの事件ですら、「それが自分にとって何を意味するのか?」と問うてみると沢山の結果に繋がる可能性があるんですよね。
例えば『地方への異動』は、左遷なのか新天地なのか?『テストの点が悪かった』は勉強を諦める切欠か始める切欠か?
「車椅子生活を始めた」という因は僕にどんな果を
そんな、「受け止め方が肝心」みたいな話が、第七話こよみティーと第九話こよみトーラスでした。
「茶道部員達と阿良々木先輩、月火ちゃんは、どっちに騙されてくれたんだろうな?」
――『暦物語』P275(こよみティー)
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そして読者もまた、どちらを真実とするか選び取る自由を許されています。
物語中で起こった出来事が、特に第十二話のラストで起こるショッキングな出来事がどういう意味を持つ結末なのか、因に併せて果も考えて欲しいですね(どっちもワケ分からんなので)。
貴方が思うに、本作中の出来事は阿良々木暦にとってどんな結果に終わったのでしょう。
そして本作を読み終えた結果、貴方は何を得たのでしょう。
しめくくり
旅程を因・目的地を果と喩えれば、結局のところ因果関係についての問いも最初の「道とは何か」とリンクするものがあります。
原因が結果を生み、結果が原因となるように/道の終わりが新たな道の始まりであるように/始まりと終わりを
まさしく、年の巡りを表す暦。字面そのまま、暦物語でありました。
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